西日本横断5日目

あまりふかふかしていなくて、清潔感があるカプセルの布団は、保健室を想起させる。カプセル内の温度は暖かくも寒くもなくて丁度良い。これにサウナ付きの浴場が付いているのだから、他の宿泊施設を予約する理由はないだろう。

アラームの鳴る10分前に目が覚め、余裕をもって大阪駅6時9分発の電車に乗り込んだ。宝塚線福知山線山陰本線を乗り継ぎ、12時7分に鳥取駅に到着した。途中の山陰本線内の鎧駅餘部駅間に、余部橋梁という約40mの高さに掛かる鉄橋があるのを知っていたので、そこを楽しみにしていたのだけど、いざ通ってみるとただのコンクリートの橋になっていて*1、大して面白くなかった。

鳥取駅を出てすぐに、事前に時刻を調べておいた砂丘行のバスに乗った。バスの中は混んでおり、また乗客が皆砂丘目当てだから空くことがなかった。降りる際のごたごたに巻き込まれるのは嫌だったので、終点の手前の駅で降り、近くの食事処に入って先に昼食を済ませた。

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いくらとサーモンの親子丼。
塩釜の市場での教訓を活かし、シンプルなものを選んだ。

海鮮丼は海の近くなら何処で食べても大体美味しいけれど、同時に飛び抜けて美味しいものに出会う事もあまり無いなぁと思った。今のところ網走駅で買ったお弁当*2くらい。

道路を挟んだお店の向かい側の入り口から砂丘に足を踏み入れた。雨が降ってきたときに浸水しないようにブーツを履いてきたのがここでも役立った。スニーカーで来ていたら足が砂まみれになっていたと思う。少し歩くと開けた場所に出て、砂丘の様子が明らかになった。

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滑らかな砂と日本海とのはっきりとした境界と、日本海の青と淡い空の青で作られる曖昧な境界が対比されて、砂丘の向こう側の光景が浮いて見えた。或いは、続いていないように見えると言うのか。一様な色の砂が続くせいで距離感が失われ、すぐそこに見える丘を歩く人が小さく見えることに面白い違和感がある。丘は想像していたよりも急で、登るのに苦労した。

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斜面の途中。この日も天気が良い。

丘を登り切って下の波打ち際を覗くと、これまで歩いてきた砂丘がただの盛り上がった砂浜であることを感じて、なんだか少し夢が覚める思いだった。

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オアシスへ注ぎ込む川(?)。傍には湿地のように植物が生えている。

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川の傍にいくつか見られた石鹸の様な膜を張った水溜り。
気になるもの。

1時間程度の散策を終え、バスに乗って駅へ戻った。電車の出発時刻まではまだ時間があったので街を歩いていると、駅からそう遠くない場所に良さげな喫茶店を見つけたので、そこで時間をつぶすことにした。手ごろな価格で色々な食事メニューがあって気になったけれど、食べたばかりでお腹は空いていなかったのでクリームソーダを注文した。

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冷たいとごくごく飲んでしまいそうになるので、クリームソーダの飲みづらいのはありがたい。

鳥取駅からは因美線津山線を乗り継ぎ、20時36分に岡山駅に到着した。市街は小さなお店がたくさんあって楽しかったのが、鳥取駅から1駅だか2駅目かには、車道沿いに急いで作ったような小規模な駅になっていたのが印象的だった。因美線は山間部を走る路線で、面白いかなと思っていたけれど、時間が遅かったので暗くてよくわからなかった。
駅近くのカプセルホテルにチェックインを済ませ、夕食を食べるお店を探してみたけれど、もう閉まっているお店も多く、開いているお店といえば、居酒屋やラーメン屋くらいなものである。お酒が飲めないから居酒屋は無理だし、ラーメンは前日に食べたから避けたい。散々迷って、結局駅前の松屋に入った。豆腐キムチチゲ膳は美味しいのだ。シュ!

*1:2010年から現在のコンクリート橋になったらしい

*2:

f:id:pDEsym:20160315123703j:plain改めて見ると粒の大きさが際立っている。

西日本横断4日目

曇りがちだった2、3日目から一転して、羽咋の家を出る4日目は暖かった。この日は羽咋駅08:01発の電車に乗り、七尾線北陸本線湖西線と乗り継いで大阪で一泊する。途中の滋賀か京都に寄ってうろうろするかもしれないが、それは電車の中で考えようと思う。

羽咋駅に着くと、1本前の電車が霧の影響で30分近く遅れていた。乗り換えをする金沢駅まで車で送ってもらおうかと一瞬考えたけれど、これから向かう先に人と会う約束があるわけでもないから、遅れても構わないかと思い直して、そのまま駅で待つことにした。08:01発の電車は定刻通りに到着し、僕はお世話になった祖父母に挨拶を済ませ、大阪へ向け出発した。遅れのせいか通学の学生で混雑していた、向かい側ホームの七尾方面行とは対照的に、金沢行の電車は空いていた。来るときに体験した電源の切り替えをまた見られるかと楽しみにしていたけれど、毎回するわけではないのか、或いは気が付かなかったのか、今回は見られなかった。
金沢駅で30分程度時間があったので、よく写真で見る門を見ようと外へ出てみた。

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大きいね。

09:30発の福井行の電車に乗り、進行方向左側のクロスシートに座った。クロスシートの場合、特別見たい景色がある時以外は大抵左側の席に座る気がする。右利きだから、右腕を自由に動かしやすい左側の座席を無意識に選んでいるのかもしれない。電車が走り出すと、右斜め前のシートに座った50代と思われる男性2人が、互いに10m以上離れて会話をしているのかと思う程の音量で会話を始めた。どうやら食品科学に関する仕事をしているらしく、パイナップルが~、エステルが~、と休む間もなく話が続いた。トンネルに入った時と、車内アナウンスが流れた時には、会話は一時中断されるかと思ったけれど、その音をさらに上回る音量で会話が続行された。余程おしゃべりが楽しいらしい。
車窓からの景色は、左右で大差は無く、左側の方が良い区間もあれば、右側が良い区間もあった。景色が変わる度に視線を左右にきょろきょろ変えるのは、落ち着きがなくみっともないと思ったから、自分の側の窓だけをじっと眺めていると、面白い発見をした。雲などに陽が隠れて窓の外が暗くなると、車内の光が支配的になり、反対側の景色が鏡のようにこちらの窓に映るのだ。これによって、左側の景色を見ているふりをしながら、右側の景色を見られるようになった。それからしばらくは、誰に見られているわけでもないけれど、得意気に焦点を変化させて双方の景色を交互に見て楽しんだ。

敦賀からの北陸本線には、衣掛山を囲うようにして回るループ線がある。ループは右回りで、後から見える琵琶湖は左手に見えるため、座席は進行方向左側が良い。駅を出発するとすぐにループに入り、山の中にもぐるトンネルを出たかと思うと、結構な高さまで来ていた。しばらくすると下の方に先程通ってきた線路が見えて、一周したのが確認できた。
琵琶湖を左手に見ながら、近江今津の手前まで来たところで、湖西線内で起きた人身事故により、電車が近江今津止まりになるとのアナウンスがされた。丁度お昼時だったので、ここで降りてもよかったけれど、20分もすれば次の京都方面行きの電車が来ると言うので、ホームで待っていることにした。電車を待っている間に周りに居た女子学生や保育園児が、関西風の訛りで話しているのに気が付いて、なんだか少し緊張してきた。

次に来た電車は混んでいて、さっきまでの左側のクロスシートは空いておらず、ドア付近の補助席に座った。初めて座るタイプのシートだったので、こういうのも悪くないなと思った。元々乗っていた新快速から各駅停車に乗り換えたので、電車の中でのんびりこれからどうしようか考えて、とりあえず京都で降りることに決めた。少し前から帽子が欲しいと思っていたので、四条まで行って何件かお店を回って、大阪に着くのが夜になるように夕方頃までぶらぶらしようと思う。寺社の類にはあまり興味が無いから行かない。
京都駅に到着し、地下鉄に乗り換えた。四条駅から鴨川の方へ歩き、1件目のお店ですぐに好みの帽子を見つけたので購入した。

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オリーブ色のハンチング。ウンメェ~。

帽子を買ってお店を出た時には時刻は16時前になっていて、だいぶお腹が空いていたので、食事をするお店を探すことにした。人通りの多い大通りを避け、古い建物が並ぶ静かな小路を歩いて食事ができる喫茶店を探していると、TVで某ミュージシャンが紹介していたラーメン屋の暖簾が目に入ってきた。ラーメンはしばらく食べていなかった気がするし、偶然お店の前まで来たのも何かの縁かと思ったので、ここで遅めの昼食にすることにした。

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チャーシュー麺。
卓上トッピングがたくさんあった。

博多ラーメンとのことだけれど、豚骨一辺倒でなく、色々な味がした。美味しかったけれど、味よりも身体の大きな女性店員さんの愛想の悪かったのが印象に残ってしまった。

まだ時間があったので、Google Mapsの助けを借りながら喫茶店探しを再開した。三条大橋(たぶん)を渡った向こう岸の道路を歩きながら下を流れる鴨川を見てみると、評判通りカップルが等間隔に並んでいた。川を見るのは好きだけれど、上の道路を歩く人の目に付きたくなかったから下へは降りなかった。次の橋を渡って駅の方へ戻り、しばらく街を歩くと、良い雰囲気のお店が見つかった。店に入ると、顔の大きなマスターが「イラッチャイ」と言って出てきた。入り口近くの席に座り、窓を隔てて外を歩く人を見ていたら、すごく贅沢な時間を過ごしているような気分になった。飲んだコーヒーはほどよい酸味があり、苦みはほとんどなかった。

夜になって大阪のカプセルホテルにチェックインして、お風呂に入った。サウナも水風呂も露天風呂もあったので、とても満足した。良い気持ちになって、もう夕飯は食べなくてもいい気がしていたけれど、惰性でうどんを食べた。値段が高かったので当たり前に美味しかった。

西日本横断3日目

前日には用事のあった祖父もこの日は家に居たため、3人でどこかへ出掛けようという話になった。乗り物に乗ることによって、自分は何もしなくても移動ができてしまうばかりでなく、人から誘われることで、自発的な外出の意志すらなくても出掛けられてしまうのだから、すごいことになったと思った。
2人の提案で白川郷の合掌集落へ行くことになり、ぺらっぺらの寝間着*1から、外出着に着替えた。白川郷には電車では行きづらいので、今回行くことになったのはラッキーだと言える。富山から多少雪が深くなってきて、内陸部の岐阜にまで入ると気温は0度にまで下がり、まだまだ春は遠い様子だった。
前に1度来たことがあると言いながらも、駐車場の場所を探して同じ道を行ったり来たりして、やっとのことで村営の駐車場に車を駐められた。

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駐車場から橋を渡り、合掌造りの住宅のある集落へ向かう。

アジアからの観光客がやたら多くて、中国語やら韓国語やらがあちこちから聞こえてきた。向かい側へ渡るとそこらに茅葺き屋根の建物があり、近くで見ると、その屋根の厚みと建物の高さに迫力があって、中がどうなっているのか気になった。建物を見ながら歩いていると、その傍に必ず「放水銃」と書かれた箱があるので、何かと尋ねると、11月ごろに集落で一斉にここから放水をするのだという。前に夫婦で訪れたのが丁度その11月で、丘の上の展望台から一斉放水を見ることができ、とても綺麗で感動したらしい。水が吹き上がる様子の何が綺麗なのか想像ができないし、その時の写真を見せてもらってもいまいち伝わらなかったので、実際に見た人だけがわかるものなのだと思って、少し羨ましいと思った。
白川郷最大級の家屋が一般に公開されているというから、寄ってみることにした。建物は5階建てで、1階が生活の場所、2階(というか階段の途中のスペース?)が使用人の寝床、3、4階には生活の道具や農作業の器具が展示されていた*2。作業道具は見ても僕にはよくわからなかったけれど、祖父母が楽しそうに見ていたので良かった。中は丁寧に保存されていて、古民家特有の、立派なお城などとは違った味のある粗さがあって、見ていて面白い。建物の見学を終えたので、集落を出ることにした。

「ああいう風なのはいいね」
「どういうこと?」
「お土産売ったりしないで、ああやって玄関で座ってるだけでも、入場料300円なら、入ってもいいかなってなるやろ?」
「確かにね。年中人は来るだろうし」
「そうそう......あ、甘酒があるよ。暖まりそうやし甘酒飲もうか」
「お酒は飲めないんだよ」
「甘酒はアルコール入ってないよ」
「そうなの?」
「甘酒はアルコール入っとらんよね、おとうさん」
「うん?ああ...」

少し不安だったのでWikipediaを見たところ、アルコールはほとんど入っていないと書かれていたので、3人で甘酒を飲んだ。不自然に感じられる甘い香りがして、あまり美味しいとは思えなかった。

僕がお昼は蕎麦が食べたいと言ったら、前に行って美味しかったお店があると言って、すぐに車を発進させた。白川郷からさらに南下し、荘川IC近くの蕎麦屋に到着した。駐車場にあった大きな水車は、冬季なので動いておらず、動いているときには周りに人が集まってぼーっと見ているのだと聞いて、面白そうだと思った。
お店に入り、祖父母は温かいお蕎麦、僕はざる蕎麦を注文した。

「前にこのお店に来たのも、さっきの白川郷を見に来た時だったの?」
「ううん、違う。えっと、どこやったっけ、おとうさん」
「ん?うーん...」
「あ、そうだ、ひるがの高原だ」
「ひるがの高原?」
「スキー場のとこにゆりがたくさん植えてあって、リフトに乗って上から眺められるようになってるの。すっごい綺麗だったよ」
「ふうん、いいねえ。ゆりかぁ」
「ゆりだと上まで綺麗に咲くんだって」
「うん?」
「桜とかだと、高さによって咲き方が疎らになってしまうけど、ゆりだと、そういうことが無いんだって」
「そうなんだぁ」

店内は空いていたので、お蕎麦はそれなりに早く運ばれてきた。ざる蕎麦は見た目では美味しいのかどうかほとんどわからない所が良い。荘川はお蕎麦が有名らしくて、中々美味しかった。

家に帰ってからは、我が家にはない炬燵でのんびり過ごし、今回の旅行中にこの家で過ごす最後の日を反芻した。

*1:荷物の軽量化のため、上は甚平、下はヒートテックという阿呆みたいな恰好だ

*2:5階は公開されていなかった

西日本横断2日目

羽咋の家には3泊するが、周辺には田畑しかなく、最寄り駅までも10km以上の距離があるため、自分ではどこにも出かけようがない。とは言っても、元々出かける気はなかったので、行きたいところはあるかという、前日の夕食の時間にされた問いに対しては、特にないと応えた。
旅行2日目と3日目は、近所をちょっと散歩して、後は家でゴロゴロしていればいいかと思っていたんだけれど、この日は祖母が金沢に病院に行く用事があるというので、検査をしている間、金沢の街を見て回ったらどうだと提案された。せっかくそう言ってくれているのだし、車に乗るのは好きだから、ついていくことにした。

助手席は眺めがいいし、それでいて自分は運転していないのだから贅沢だと思う。無料化されたのと里山海道を走りながら、金沢に着いてからの話をした。

兼六園に行くんはどう?」
兼六園には前に家族で行ったことがあるよ」
「1人ではつまらんかもしれんね」
「そうかもしれないね」
「そうだ、21世紀美術館がいいよ」
「何があるの?」
「わからん」
「それはいいね」
「うん」
21世紀美術館に行こう」

大学病院の傍まで来ると、駐車場が工事中で、外の道路まで車の列が伸びていた。先に降りていてもいいと言われたけれど、外は小雨がぱらついているし、シートに座っているのは楽なので、しばらくそのまま過ごした。20分くらい経つと、雨が止んだように見えたので、車から降りて兼六園や美術館のある方へ向かった。
市街は天気のせいか自転車が少なく、歩きやすかった。兼六園の傍を通り、美術館の前まで来たところで、入場するか迷いだした。美術館には展示品がたくさんあるんだろうけど、人に見てもらうために造られた品は、きちんと見なければいけない気がして気が重い。それに、旅行中だからといって、普段興味を持たないような場所に行ったり見たりしてもあまり楽しめないことは、これまでの経験から分かっていた。だからと言って、入場をやめて街をぶらぶらしているだけで楽しめる保証は勿論無いけれど、わざわざお金を払って有名な観光地に行ってつまらないよりはずっといい。期待は先入観と同じで、できるだけ持たない方が賢明だと思うから、人が大勢集まる観光地などの、楽しいと評判の場所は注意が必要である。

美術館の見学をやめて、世界で2番目に美味しいメロンパンを食べたりしながら1時間ほど街を歩くと満足したので、病院に戻ることにした。再び小雨が降り出してきたが、できるだけ折り畳み傘は使わずにいたい*1ので、雨を頭に受けながら歩いた。僕が到着したときに丁度検査が終わり、車に乗って病院を出た。

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世界で2番目に美味しいメロンパンアイス。
パンが焼きたてで美味しかった。

金沢を出ると空は晴れ上がっており、進路の前方には虹が出ていた。虹を見るのは久しぶりで、ちょっとテンションが上がった。原理を知らなかった時代の人々の目にはさぞ神秘的に映ったのだろうなと考えたりした。

「虹が2重にかかると、片方は色の順番が反転するんだって」
「へえ」
「こないだTVでやってた。光の屈折が~言うてたけど、ようわからんかった」
「ははは」
「石川を出てからはどうするの?」
「とりあえず鳥取で砂丘に行くのと、香川に行くからうどんを食べようとは思ってるよ」
「あそこへ行ったらうどん食べないとね」
「だよね」
「私はうどん嫌いだけど」
「うどんが嫌い?」
「そう。うどんが嫌いな人なんて私しかいないだろうね」
「そうだね」

15時ごろに帰宅し、前日に不在着信のあったアルバイトの応募先へ折り返しの電話を掛けた。2月の初めにアルバイト先が無くなり、お金が足りない状態で今回の旅行を決行したため、4月の口座振替日までにお金を調達しないといけない。まあ運が良いので何とかなると思う。

面接の日取りを決め終えて時間ができたので、散歩に出かけた。

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のん。

昔は飼い犬と一緒に散歩をしていたけれど、今はもういない。1人ではあまり楽しくなくて、すこし寂しい気持ちになった。

*1:濡れた傘をバッグにしまうのがいやだ

西日本横断1日目

4月からは4年生だ。院試やらなんやらで、今までのようにぼんやりとはしていられないかもしれない。するけど。ここらで1人でする旅行の1つの区切りとして、小学校の修学旅行で京都に訪れて以来行っていなかった、西日本方面へ行ってみようと思う。

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前の記事でも触れた上図の色付きの線上を移動し、石川にある母の実家で3泊、大阪、岡山、松山・小倉フェリー、熊本、鹿児島で1泊する。鳥取で砂丘を見ることだけは決まっているが、他は着いてから考える。

 

2月29日の夜、翌日は早起きだから早く寝ようと、頭の片隅で考えてはいたものの、結局布団に入ったのはいつも通り、1時を回ってからだった。寝付きが悪いのもいつも通りで、眠れない夜には誰もが経験するであろう、残りどれだけ寝る時間があるかの計算をし始め、少しもリラックスできる気配がなくなってきたところで、いよいよ4時20分にセットしていたアラームが鳴った。どうせこの日1日、集中力を要求されるような事はないし、結果的にアラームが鳴った後にきちんと起きているんだから良しとした。
のろのろ準備をしていたら、出発の時間ぎりぎりになってしまったので、仕方なく駅までは自転車に乗って行くことにした。外はまだ暗く、寒さで体が震え、寝不足で少し目が回っていた。欠伸をしながら入った最寄り駅の窓口には、青森の時と同様に駅員がいなかったので、入鋏印は八王子駅で押してもらった。

大月行の中央線に乗り、相模湖に差し掛かった辺りで、山の稜線から陽の光が漏れ出してきた。赤い山際から、藍色をした未だ夜の空に掛けては薄黄緑色にぼやけていて、夜なのか朝なのかわからない、夢のような色をしている。陽が山の陰を出入りするせいで、車内は朝と夜とを行ったり来たりした。
大月で乗り換えた中央本線クロスシートで、発停車の際の振動が背中に伝わり、グングン進んでいく感じがする。陽はまだ低いから、周りの照らされた山々は赤色で、夕暮れと区別がつかない。時計を使わずに朝焼け時(こんな言葉あるのか)と夕暮れ時とを区別するにはどうしたらいいか、何度か考えたことがあった。1つは、しばらく何もせずに周りを見ていればいい。暗くなっていくか明るくなっていくかで判別ができる。そして今回思いついたのが、音を聞くこと。朝は眠っている生物が多いから、夕暮れに比べて恐らく静かだと思う。
甲府まで来ると段々雪が見られるようになってきて、松本で大糸線に乗り換えてからは、ちらちら雪が舞っていた。外はだいぶ寒いようで、震えながら手元のスマートフォンを見つめる乗客が、きっちり並んでロングシートに座っている様子は、これからどこかへ連れていかれる捕虜のように見えた。信濃木崎を過ぎてから、一面雪の山間部に入り、大糸線木崎湖と青木湖の畔を通過し、姫川に沿って内陸と沿岸を結ぶ。

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木崎湖。旅行中はいつも天気が良い。

電車の側方に見える木々の大半がスギである事に気付いてぞっとしたり、ウトウトしたりしているうちに、終着駅である糸魚川駅に到着した。

糸魚川からは、新幹線の開業で第三セクターに移行した、えちごトキめき鉄道(かわいい)と、あいの風とやま鉄道(かわいくない)を乗り継ぐ。この区間は18きっぷの利用ができないが、日本海沿いを走る好路線なので気にならない。

糸魚川駅での乗り換え時間は3分と短い。きちんと券売機で切符を買って再入場するか、車掌に伝えて車内で買うか、ぼんやり考えながら歩いていたら、電車が行ってしまった。この先での乗り換えの時間を考えると、次に乗る電車は2時間半後の出発になる。外は雪がたくさん降っていて出たくなかったから、駅の中で昼食にすることにした。喫茶店を見つけ、店先のメニューに「ナポリタン」の文字を見たかと思うと、店内に身体が吸い込まれた。

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2016年13食目のナポリタン。
味はミートソースに近い。サラダに入っているトマトがあまり美味しくなかった。

店を出てからは建物内のベンチで何もせずに過ごし、定刻に来た電車に乗り込んだ。シートはほぼすべてクロスシートで、内装も外装も可愛い。日本海が見える進行方向右側の座席に座り、外を眺めた。1年ぶりに見た日本海は緑色をしていて、暖かそうに見えた。しばらく乗っていると、地方の路線は駅の間隔が広いせいで、車内アナウンスの無い時間が首都圏の電車と比べて長く、これがのんびりした気持ちになれる要因の1つなのではないかとひらめいた。クロスシートや車窓風景の事はわざわざ言うまでもない。
津幡駅七尾線に乗り換える頃には外は暗く、羽咋駅までお迎えをお願いしていた祖父母には少し悪い気がした。学校や職場からの帰宅の時間なのか、少々混雑した電車に乗り込んでしばらくすると、電源の切り替わりとやらで、少しの間電気が消えるとのアナウンスが流れた。それは楽しそうだと思ってわくわくしていると、灯りが消え、電車内と外との境界が曖昧になった。車内が外と同じ明るさになった状態は非日常的で、数10秒後に元通り電気が点いた時には、消えっぱなしだったら良かったのになぁと感じた。

羽咋駅の改札をくぐると、高校1年生の夏休み振りに会う祖父母が迎えてくれた。今日までの間にお互いが出掛けた場所や、弟たちの話をした。懐かしい道を通り、度々ストリートビューで擬似散歩をしては、また行きたいと思っていた家に、神奈川の自宅を出発した15時間後、帰宅した。

旅行振り返り

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自宅のある神奈川から鹿児島まで、電車に乗って西日本を横断してきた。上図の色のついた線上をそれぞれ1日で移動し、松山―小倉間はフェリーを利用した。
例によって、内容は次回以降の記事に載せることとして、この記事では、今までしてきた各旅行で、特に印象に残った場面を簡単に取り上げて振り返ってみようと思う。

長野(2015年3月2日~3日)

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1人でした初めての旅行で、経路は事前に購入した本で紹介されていたものをそのまま採用した。1日当たりの移動距離は比較的控えめで、松本市街、野沢温泉村をゆっくり見て回った。
計画をしている段階では、篠ノ井線松本駅長野駅間の、姨捨駅付近からの車窓や、野沢温泉の外湯を楽しみにしていたのだけど、実際に行って印象に残ったのは、千曲川に沿うように走る飯山線の車窓から見た、街を深く覆う霧と、千曲川と雪山が作る水墨画の様な風景だった。

青森(2015年4月2日~4日)

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白神山地の青池を見てみたい一心で計画した旅行。緑色で示した経路を往復することはせずに、往路は遠回りする経路を選択した。青池の他には特に見物するものを決めず、日本海側の路線を通ること、リゾートしらかみに乗ることなど、移動自体を楽しむのに徹した良い旅行だった。
よく覚えているのは、新津駅のベンチでのんびり過ごした一時と、自分の他に誰もいない(営業期間でなかったのかも)中で見た、周りの音を吸い込んだように静かで深い青色の青池

北海道(2015年9月2日~5日)

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強い動機はなかったと思う。夏の北海道の大地は美しいだろう。ご飯が美味しいだろう。北海道を選んだのはそんなところだったと思う。どの路線でも本州では見られないような独特の景色があった。
印象に残っているのは、石北本線留辺蘂遠軽間で見た寂しげな林と、白滝―上川間(うろ覚え)で見た夕暮れの畑と牧草地。もう一つが、帯広の喫茶店で食べたナポリタン

岩手(2015年12月26日~30日)

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とりあえず寒いところに行きたいと思って東北を選んだ。1日当たりの移動距離を抑えて、各地での観光の時間を多くとった。行ってみると、岩手県に入るまではほとんど雪は見られず、車窓からの景色の印象は薄かった。
遠野市街北東部に真っ直ぐ伸びる土淵バイパスを、地吹雪に遭いながらのそのそ歩いているとき、周囲に歩行者は1人もおらず、車通りも少なかったために、前方へ延々と伸びていく道と盆地の平野を、独り占めしているような気持ちになった。

2016-02-20

朝目を覚まして窓の外を確認すると、予報通り雲行きが怪しかった。この日は小さな買い物と、ナポリタン調査に八王子へ出掛けようと事前に決めていた。久し振りに傘を差したいという気持ちから、天気が悪いのを承知でこの日を選んだので、もっとしっかり雨が降り出すまでは家の中に居ようと思った。
朝食を食べてしばらく何もせずにいると、一寸寂しくなってきたので、何となく「朝だよ、呟いて」とツイートしたら、「朝だね〜」と答えてくれたフォロワーがいた。優しい…。お昼頃に大きくなってきた雨音を聴いて、出掛けることにした。

外は空気がひんやりしていて、起床したときから続いていた動悸が体の震えで紛らわされた。雨が降っていたおかげで花粉症の症状も出なかったので、雨の日を選んで正解だったと思った。
八王子駅に着いて、先ずはナポリタンを食べに喫茶店へ向かった。店先に素朴なショーケースとメニューの書かれた看板がたててあって、良い雰囲気だった。店内に入ると店員さんとお客さんが楽しそうに話をしているのが目に入ってきた。空いていたから窓側のテーブル席に着いて、ナポリタンを注文し、いつも通りぼんやりしていた。料理を注文してから出てくる間の、何もしないでいる時間が好きだから、たくさん時間をかけてくれるといいんだけど、10分もしない内に提供された。

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想像していたものよりも麺が細かった。
ソースは良い具合に絡んでいて美味しそう。

鼻にツンとくるような香りがあったから、最初からタバスコがかかっていたんじゃないかと思う。麺の柔らかさが丁度良くて、今まで食べてきたものの中では珍しく、見た目より美味しいナポリタンだった。
食後のコーヒーはあまり特徴が感じられなくて、その分飲みやすかった。ゆっくりコーヒーを飲み、お店の外を眺めながら、この後の事を考えていた。

八王子にはナポリタンの他に、翌月に使う切符と、メモ帳を買う為に来た。今使っているメモ帳には、特に決まった役割は与えていなくて、講義中にされたアナウンス、アルバイトの業務に関する事、外にいるときにふと思った事等々を、ページも上下も考えずにめちゃくちゃにメモしてある。自分しか見ないのだから無秩序なのは構わないけれど、「外にいるときにふと思った事」だけは他と区別しておきたいと思ったので、新しいメモ帳を買おうと思い立った。

コーヒーを飲み終えても、どこへ行くか決まらない。メモ帳がどこで売っているのか分からないからだ。今使っているのはコンビニで買ったから、コンビニに行けばあるんだろうけど、またコンビニだと面白くない。買い物が苦手な僕にとって、こういう場合に一番良いのは専門店に行くことで、傘を買うときでも、靴を買うときでも、とりあえず専門店に行けばなんとかなったし、何となくこだわったような気がして気分が良い。メモ帳専門店はあるかと考えたけれど、想像できなかった。あっても潰れると思う。
長居をするのはいけないと思ったからお店を出て、書店や雑貨店を見て回ったけれど、めぼしいものは中々見つからない。代わりにくまざわ書店をたくさん見つけた。小さな店舗を複数個所に分散させて、客数を稼ぐ狙いがあるのかもしれない。くまざわ書店に飽きて、ショッピングセンターに入ってベンチに座ってしばらく考えてみると、メモ帳専門店は、文房具屋がその役割を担っていることに気が付いた。

スマーホンで検索して、周辺の文房具屋の中で一番大きなお店に行った。お店までの道にも数件喫茶店があって、まだまだ調査のし甲斐があると思った。文房具屋は、変わったものがあるわけではないものの、各種品揃えが豊富で満足した。1冊で十分だったが、気に入ったものが2種類あったから2冊買った。

駅に戻って18きっぷを2枚購入し、この日の買い物を終えた。