メキシコ2日目

 前日の夜が早く訪れたのと同じ理屈で、この日の朝も早くやってきた*1。外の明かりを感じるようになってきた頃にはまだ眠りについていなかったけれど、かえって良かったかもしれない。朝は本来眠らなくても良い時間なので、夜よりも安心して楽に眠ることができたような気がする。
 到着の時刻が迫り、窓からは街並みが見られるようになってきた。植物の緑の中に赤っぽい色の屋根が散らばっている。補色だからか両者がとても際立って見えた。

 恙無く諸手続きを終え、ゲートを出ようというところで職員に呼び止められた。

- De dónde eres tú? どこから来たのですか。
- Japón. 日本です。
- Narita? 成田ですか。
- Yes.(英語) そうです。

 ......普通にスペイン語だったので少し驚いた。考えてみれば当たり前のことではあるけれど、空港やホテルなら英語が通じるという事前情報が頭に入っていたので油断していた。非常に簡単な内容とはいえ、初めてのスペイン語でのやり取りだったこともあり、Síが出てこなかった。ところで、これ以降もこのような現地での会話を(もちろん全てではないが)聞き取れた範囲で正確に書き記していくが、何せ勉強が足りていないので、相手やこちらの言葉の中には文法上の誤りがいくつも含まれていると思われる。それでもそれをそのまま記事に残すのは、現時点での語学力をあとから振り返って、その下手くそな受け答えだとか、余裕の無さを少しでも懐かしんで楽しめたりしたらいいと思うからだ。

 両替所で手持ちの米ドルをメキシコペソに両替した後、最初にメトロ(地下鉄)やメトロブス(路線バスの一種)で使えるICカードを購入した。このあたりの流れは事前によく調べておいたので、券売機の場所や使い方などにはほとんど悩まずに済んだ。カードは1回分の乗車賃30ペソとデポジット10ペソの計40ペソで購入でき、超過分はチャージされる仕組みだったと思う。なお乗車賃はすべて先払いで、メトロが5ペソ、メトロブスが6ペソだった*2

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 カードのデザインは購入した券売機によって異なるらしい。シティ滞在中に何度かバス停や地下鉄駅で券売機が設置されているのを見たけれど、カードは大抵売り切れていた。

 空港の外へ出ると、ちょうど市街へ行くバスへ人が乗り込んでいるのが目に入ってきた。路線は確認していなかったけれど、列に並ぶ人に尋ねると目的の駅へ行くことがわかったのでそのまま乗り込んだ。0.1Hzぐらいのペースでクラクションを鳴らし、飛行機よりも大きく車体を揺らしながらバスが走行する。窓から見える街並みから異国に来たことを実感させられるが、同時にこの期に及んでも特に行きたい場所が無いという自身の気持ちに気づいたりもした。長時間のフライトで多少疲れていたこともあったかもしれない。
 目的のHidalgo(gentlemanの意)駅に到着し、すぐ近くの日本人宿にチェックインした。日本語を話せるオーナーは外出中で、予約の管理も曖昧とのことだったので、なんとかその場で適当に部屋を割り振ってもらった。もはや予約をした意味も日本人宿である意味も無いような気がするが、無事部屋は確保できたので気にしないことにする。荷物を置き、身軽にしてから再度外に出る。時間的にも体力的にも何箇所も回ることはできないので、この日は人類学博物館にだけ行って終わりにする。
 メキシコ国立人類学博物館では国内の様々な地域からの出土品や先住民の暮らしが展示されており、地域・文明ごとに分けられた建物を順に回っていくことで、国内の発展の様子を時系列で学ぶことができる。規模は相当大きく、東京ドームが1.7個入る(?)。とりあえず順に見て回っていくが、各展示物横の説明文はスペイン語で何が書いてあるのかさっぱりわからず、何を見ても感想が出てこない。尤も、何語で書かれてあろうが恐らく読まなかっただろうが。最後までほぼ惰性で見学し、時間だけが過ぎた。結局よくわからなかったが、よくわからないということがわかったので満足した。高額紙幣も崩せたし。

 宿に戻って一眠りした後、夕食を食べに出かけることにした。店までの道の途中、賑やかな通りを歩いていると横から英語で話しかけられた。中途半端にわかってしまう言語だったせいで反応してしまい、ギャンブルのようなものに付き合わされることになった。蓋をするような形で逆さに置かれた複数のカップのうち1つを選ばされ、中に玉が入っているとかいなかったとかで勝ち負けを決めるものらしい。ルールの理解が曖昧なまま、最初のチュートリアルを終えた段階で1000ペソ紙幣を渡されたが、気味が悪いのでこの時点でもうやめようと思った。6000円程度に相当する高額紙幣だけれど、偽札かもしれないし、その程度のお金で危ない橋を渡るのは嫌だ。それに何よりここにいる連中の雰囲気が気にいらない。手中の紙幣を返し、Sorry, I hate gamble.とだけ言って立ち去った。
 思わぬ邪魔が入ったが、無事店に着いた。カウンターとテーブル席のある飲み屋のような雰囲気で、旅行者と思われる人の姿もいくらか見えた。店員に案内され、カウンター席に座ってメニューを見るが、やはりほとんどわからない。とりあえずかろうじて内容の想像できたクリスピータコスとハイビスカスジュース、ピーマンを使った前菜を頼んだ。

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 美味しくも不味くもない。どんなふうに調理されているのかわからないけれど、ピーマンは食感・味ともに損なわれているような気がする。タコスの方は手前のグリーンチリソースがかなり辛くて驚いた。ほとんどソースを食べるような形になるので、クリスピーでない方が良かったと思った。

 初めてのことが続いて少し疲れたので、今日はもうシャワーを浴びて寝ようと思った。共同のシャワールームに入り、全く同じデザインの左右のバルブを1つずつひねって温度を確かめてみる。どちらも水しか出てこない。海外の洗礼だ…などと勝手なことを考えつつも、仕方がないのでそのまま水で洗うことにした。まあ洗えないこともない。体を震わせながらも体を洗い終え、浴びる前よりも疲れたような心地で布団に潜り込んだ。

*1:以下どうでも良いメモ
 飛行機の対気速度は地球の自転速度の約50%程度なので、両者の方向が一致した場合、通常の1.5倍の早さで朝がやってくることになる。また今回の航路では偏西風が追い風となるので、その分さらに早くなるだろう。実際のそれぞれの速度は地球の自転速度が1700km/h、飛行機の対気速度が900km/h、飛行機が飛行する高度での偏西風が360km/hとのことなので、倍率は(1700 + 900 + 360) / 1700 = 1.74と計算できる。
 次に発着時刻と所要時間から倍率を計算してみよう。17時発14時着ということは、宇宙空間から見れば地球の21/24周分の距離を移動したということになるが、この間に経過した時間(飛行時間)は12時間であった。つまり通常21時間かかるところを12時間で移動したということになるので、倍率は21/12 = 1.75ということになる。これで辻褄が合った。やったね。

*2:空港発のメトロブスの運賃のみ30ペソ