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西日本海岸線5日目

高い場所があると、とりあえず上ってみたくなる。ロープウェイの営業の始まらない早朝6時前に起きて、気持ちの良い朝の空気を吸いながら千光寺山を徒歩で上った。馬鹿と煙は高いところに上ると言うけれど、これは無暗に目立ちたがったり、煽てられてすぐに舞い上がる様子を喩えたものであるから、人の多い時間を避けて、穏やかな気持ちで高い場所へ上る僕は該当しない。上からの眺めはそれなりで、対岸の向島との間を流れる尾道水道が、普段では見かけないような景観を作り出していたのが印象的だった。ざっと日本地図を眺めてみても、瀬戸内海ほど島々が点在する場所は他に無く、独特な地域であることが分かる。

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猫をたくさん見かけた。
港が近いから餌になる魚が手に入りやすいのかもしれない。

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ぽ。

 

 6時33分発の電車に乗り、尾道からさらに西へ向かう。青春18きっぷは、厳島神社のある宮島と本州を結ぶ宮島フェリーの乗車券としての利用ができ、山陽本線の途中の宮島口駅に着いた時には、少しそのことを思い出して気になったのだけれど、お昼には門司港へ着くようにしようと決めていたし、有名な大鳥居は、近くまで行くと足元がびしょびしょになるという勝手なイメージがあったので、今回は素通りした。歳を取ってからもう一度来ようと思う。

朝食を食べていなかったために、山口まで来る頃にはお腹が空いていた。旅行中の朝食は、駅内の売店で簡単なものを買って食べたり、この日のように食べずに済ませてしまうことが多い。普段午前中にお腹が空くことは珍しいので、この時だけ実家の朝食が恋しくなる。

13時過ぎに門司港駅に到着した。以前お世話になったモクモクのバイト先のお兄さんから、門司港駅の駅舎がかっこいいのだという話を聞いたことがあり、それも少し楽しみにしていたのだけれど、生憎駅舎は2012年から改修工事が行われていて、今は見ることができなかった。
港へ向かうと、"レトロ"と称される歴史的な建物の街並みが現れる。オレンジタイルの洋館など、かつての貿易港の情緒が感じられる一方で、周りは近代のタワーやマンションなどに囲まれている上、非常に綺麗にされているので、逆にこちらの方が後から作られた作り物のように見えなくもなかった。自分も含め、周りを歩く人の格好が現代のものだったのもあるかもしれない。それからもう一つ、そもそもの要因として、映像の先入観がある。これは、この門司港の街並みが最も栄えていた時代を残した映像がモノクロであることから、その印象が頭に残ってしまい、色付きで眼前に広がる光景に、違和感を覚えてしまうというものだ。特にモノクロは、この門司港に限らず強烈な印象を残すように思う。モノクロ写真に残された時代であっても、実際には当然世界に色は付いていたはずなのに、それを受け入れられない。もはやモノクロであるという事そのものが過去を保証している印象すらある。

門司港の話に戻りまつ。簡単に街の見学を済ませてから、名物*1である焼カレーのお店で昼食を食べた。

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言ってしまうと美味しい"カレードリア"だった。
上にオニオンフライが乗っていたのが良かった。

店主が大変気さくな方で、今回の旅行の事や、お店の事などの話をしているうちに、隣の席の方にまで輪が広がり、すぐに3人で話すようになった。話しているうちに、その隣の方が福岡市から仕事で来ていることがわかったので、門司の後には福岡市に行く事と、夕飯のお店を探している事を伝えると、天神の屋台をおすすめされた。お酒は飲めなくても平気だと言われたので、夕飯はそこで食べることに決めた。

美味しい焼きカレーを食べた後は、例によってタワーに上ったり、駅近くの鉄道記念館を見学したりした。

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これはどうなんだ。

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展望台カフェにて、バナナ紅茶。
なかなか美味しかった。

ここのタワーもやはり、エレベーターに乗っている時間が楽しさのピークだった。できることならガラス張りのエレベーターに乗って、10分間くらいは上っていたいものだと思う。

夕方になってから、博多へ向かう鹿児島本線に乗車した。窓から見た陽が、薄い雲に覆われていたせいで、輪郭がぼやけて大きく見えた。僕はよく夢の中で、恐ろしい大きさの月や太陽を見るので、錯覚や絵でもそういったものが現実に見られると、見入ってしまう。

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福岡は都会だった。普段なら嫌気が差す都会だが、福岡の街は、地下街が広く整備されているおかげで、歩きやすくて良かった。チェックインを済ませてから、夕食を食べに天神へ出かけた。
屋台が軒を連ねる通りまで来て、目当てのお店を確認すると、ぴったり満席だった。屋台は初めてなので、並ぶものなのか勝手がわからず、とりあえず意味もなく通りを2往復した。よっぽど隣の空いているお店にしようかとも迷ったけれど、なんとか耐えた。お昼にお店をおすすめしてくれた方と、この先会うことは決してないだろうから、僕がどのお店に行ったところで知られる事も無いのだけれど、自分自身の中に後ろめたさを残したくなかった。
お店のそばに立って待ってしばらくすると、2席程空いたので、ちょうどその時にやって来たお兄さんと相席することにした。せっかく隣同士になったので、地元の方ですかと話し掛けてみると、生まれは福岡だけれど、小さい頃に引っ越してから、ずっと神奈川に住んでいると言う。こちらも神奈川から来たことを話すと、お互いに県→市→区と範囲を狭めながらの探り合いが始まり、結局最寄り駅まで同じである事がわかった。福岡まで来てご近所(?)さんに会うとは考えもしなかったので、お互いに驚き、親近感が湧いた。アイスブレイクが済んでからは、普段していることや、お仕事のことなど、楽しくお話をすることができた。居酒屋などに入る機会が少ないこともあって、焼き鳥の種類などが名前を見てもよくわからないのだけれど、この日はお兄さんの助けのおかげで思うように注文できたのも良かった。

お店の方は話しやすいし、どの料理もこっちの専門店で食べるよりもずっと美味しかった。ラーメンと焼き鳥2本(ヨツミ、ズリ)とソフトドリンクを頼んだ上、手羽先をサービス*2してもらって850円という価格もグッドだ。福岡では安直にラーメンだからといってラーメン屋に行ったり、焼き鳥だからと言って焼き鳥屋に行くものではないなと思った。屋台だよ屋台!

 

この日1日で普段の2週間分くらいの会話をしたと思うけれど、疲れたとは感じなかった。そのくらいどれも楽しい会話だった。旅行を通して自然に触れる機会は中々なかったけれど、代わりに人とたくさん触れ合った、今までにない旅行だった。こういう旅行もモイ。

*1:港の周辺だけで焼きカレーを出すお店が20店舗以上ある

*2:お昼に会った人におすすめされたと伝えたら喜ばれてサービスしてもらえた