旅行をせずに旅行をする方法

先週の平日、都内で同時期に開催されている2つのロシア絵画展に行ってきた。雑誌で紹介されていたのを見たのがきっかけで、一気に足を運べばそれぞれを比較したりして楽しめそうだなと思って行くことに決めた。美術館には普段あまり行かないのだけど、今回は面白い発見があった。

いきなり!感想

それぞれの展覧会の話をする前に、2日間を通しての感想を先に書いておこうと思う。
今回の発見を一言で表すなら、「風景画を鑑賞することで旅行をせずに旅行ができた」になるだろう。僕は今までにしてきた旅行では毎回メインとなる風景を設定していて、多くの場合そこでぼーっとしている時間が旅行中で一番好きだった。特に好きなのは水辺の風景で、海や川のような流れと広がりがあるものよりは、湖や沼のような閉じた空間に水が溜まっているものが良い。今回の展覧会でもそのような水辺の風景を描いたものがいくつかあったのだけど、それらを見ているうちに気付いたことがある。周囲の人に倣って細かい部分を近くまで寄って見ているときには気が付かなかったのだけど、少し離れた場所から全体を眺めるようにして鑑賞していると、意識が絵の中に入り込むような感覚がしてくるのだ。僕はこのとき、先述の旅行中のぼーっとしている時間を思い出し、旅行に来たような気分になっていた。また絵画は単純な風景の切り取りではなく、画家が美しいと感じた部分がそれぞれの表現によって強調して描かれるので、絵を通じてその風景の魅力を教えてもらっているような気になる。なんてことのない風景であったとしても、その時の心情や注意の向け方によっては、人の心を動かすのに十分な魅力が宿る。絵画はそのような感覚に優れた画家の体験を追従させてくれるのだ。もちろんその魅力に共感できることもあれば、できないこともあるのだけど、それも含めて面白いと思った。

 

12月17日 ロマンティック・ロシア

19世紀後半から20世紀初頭の作品が季節ごとに展示されており、ロシアの広大な自然や人々の暮らしの一年間の移り変わりを体験することができる。詳しくは以下ページ(丸投げ)。

 

さて、おおよその感想は先に書いてしまったので、ここではいくつかの気に入った作品の紹介をして終わろうと思う。

 

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アレクセイ・サヴラーソフ《霜の降りた森》

凍てついた森に訪れるひとときの微かな暖かさ。淡い色が気持ちを落ち着かせてくれる。季節は冬だけれど、とても暖かい気持ちになった。

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イワン・シーシキン《雨の樫林》

雨の日を描いた作品は珍しかった。雨の日を喜ぶ人はあまり多くないけれど、植物に目を向けてみると、その生き生きとした姿に気付くことがある。この作品はまさに、雨の日に植物と大地が見せる生命の温度を表現したものだと感じた。

 

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             アルカージー・ルイローフ《静かな湖》


この日一番気に入った作品だったのにポストカードがなかった...。背の高い樹々に囲まれた小さな湖と、小舟に乗って釣り(?)をする老人が描かれた作品。全体に深い色が使われていて、暖かく、静かでゆっくりした時間の流れを感じた。

 

 

12月19日 ロシア絵画の至宝展

こちらはロシアの自然風景はもちろんのこと、神話などをテーマにした歴史画を含む、精神を表現した作品が多く展示されていた。24日で期間は終了しているのでもう見られないけれど、一応下にページを載せておく。

 

作品紹介

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アルヒープ・クインジ《虹》

この日断トツで惹かれた作品。他と比べると結構大雑把(?)な描かれ方がしている気がするけれど、むしろそれがメインに据えた虹の感動を増幅させる。虹という現象を最も象徴する瞬間が見事に描かれていると感じた。

 

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イワン・シーシキン《森の細道》

シーシキンの作品、とにかく樹が美しい。こんなに素晴らしい光景を見せてもらったことにお礼を言いたくなる。小さい頃のきらきらした夏の日の記憶が思い起こされるような気がした。

 

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ワシーリー・ポレーノフ《草花の生い茂る池》

夢を見ているような心地がする。奥にいる女性も同じ気持ちで池を眺めているのだろうか。気になるけれど、このまま話しかけずに過ごすのだろうと思った。