仕事について

学部2年生のとき、この6年間で出会った人の中で最も感謝している先輩にこんなことを聞かれたことがあった。

「どうしてフリーターではなく、正社員として就職しないといけないのかと人に聞かれたら、おさかなは答えられる?」

当時就職活動を控えた先輩は、多くの学生は答えられないだろうと付け加えた上で、僕の反応を見ていた。それに対する僕の答えといえば、それはもうぼんやりとしたもので、保険がどうとか収入がどうといったような、単なる事実の羅列。自身の価値観が全く反映されていない、教科書的回答だった。先輩は「そうだよな。俺も今考えてるんだ」とだけ言い、その話題は終わった。この問いはありふれたものだけれども、僕の頭の中で長らく引っかかっていたように思う。

それから僕は今日までの4年間を過ごす中で、本当に幸運なことに、もう一人の素晴らしい先輩に出会った。この先輩は研究室の2学年上の学生で、人格は少々破綻気味であったものの、とにかく優秀な人だった。この先輩とはそれほど深く交流があったわけでもなく*1、何かを語り合った間柄でもないのだけど、研究活動を通して非常に多くの刺激を受けた。彼は相手に関わらず批判的に発表物を評価し、常に悪い点の全てを厳しく指摘した。初めの頃はその姿勢に内心むかついたりすることもあったけれど、彼が自身の研究活動に対して、それ以上の厳しい評価と粘り強さを持って取り組んでいることを知るまでに時間はそれほどかからなかった。彼の卒業後、比較的ゆるい雰囲気の研究室で、腐らず、熱心に研究を進めていたあの姿勢を僕は見習うようになった。

僕は運に恵まれていると思う。自身の考え方に多大な影響を与えてくれるような先輩に、大学の6年間で2人も出会うことができた。そしてそれに加えて、4年前にされた問いに対する答えさえも見つけることができた。もしこの先フリーターとして働く道を選んだなら、このような刺激を与えてくれる素晴らしい人物に出会うことはあるだろうか。変わらない役職・職場・人脈の中で、熱意を持って仕事に取り組み続けることはできるだろうか。「とりあえず独身で生活するのに必要なお金を稼げれば良い」といった低いモチベーションで過ごすには、定年までの40年間という歳月は長すぎると思う。
2人の先輩が卒業してから、このことを強く感じるようになった。保険や収入も大事な要素であろうが、刺激的な人物との交流と、熱心に仕事に取り組めるかということこそが、あの問いに対する答えであると今では自信を持って言える。

*1:そもそも研究室にほとんど来ていなかったからだ