2016-03-19

知らない男と並んで、暗い階段を下りていく。男の輪郭の他には何も見えなかったので、建物の中にいるものだと思っていたのだが、下りたところは屋外の広場だった。コンクリートタイルの敷かれた広場の中央だけが、白い光で薄く照らされていて、周りには植木が並んでいる。
さらに階段を下りていくと、また同じような広場に出た。辺りは静まり返っており、僕たち2人の足音以外には何も聞こえない。一歩前へ踏み出すと、こちらを覗く霊の映像が脳裏をよぎり、その瞬間から強い緊張が生じた。同行していた男は僕の一歩先の位置を保ちながら、薄く照らされた広場の方へ、タイルの上を足音を響かせながら歩いて行った。
常に次の瞬間には恐ろしい体験をするような予感をしながら、後ろを歩いていると、彼の呼吸が荒くなってきた。相変わらず、辺りからは僕ら2人以外の気配は感じられないし、音も、僕ら2人の足音と呼吸音しか聞こえない。一向に何も起きない状況に恐怖し、堪らず彼は大声をあげて駆け出した。彼が前へ走ることによって、後ろから何かが追って来ているような錯覚を起こし、水を浴びたような気がして、僕も彼に続いて走り出した。
最初の広場を駆け抜けたところで右を向くと(右しか見えない)、そこにも似たようなコンクリートタイルの広場があった。彼は勢いそのままにその広場の方へ走っていく。こちらの広場は周囲が胸の高さほどの石垣で囲われており、やはり中央だけが白い光で薄く照らされている。僕たちは広場の奥に辿り着き、必死でその石垣をよじ登ろうとするが、手を掛けると途端に腕の力が抜け、なかなか登ることができない。そうしてもがいている間にも、段々と後ろから何かがせまってくるような気がして、足の力まで抜けてしまう。身体を大きく震わせながら、やっとのことで彼は石垣を登り切り、僕のことなど忘れたように、或いは最初から知らなかったのかもしれないが、暗闇の方へ駆けていった。僕はいつまでもその石垣を登り切れずにいた。