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仙台・遠野2日目

カプセルで朝を迎えるのは今回が人生で2度目だった。寝ることしかできないのが功を奏して、2度共寝付きは良かった。起床したのも前回とほとんど変わりなく、3時頃の事だった。前回と違うのはスパのような大浴場が無いことで、お風呂で時間をつぶすことができなかったから、出発の時間まで2度寝をすることにした。20分程度の短い睡眠を繰り返し(毎回熟睡したと感じていたけど、時計を確認するとこんな具合だった)、時分を見て駅へ向かった。

僕は夏の暑さや冬の寒さで体調を崩したことは無い。また、特別不快だと思ったことも無い。これらの時期に体の具合が(一時的に)悪くなるのは、決まって過度な暑さ・寒さ対策をした時で、多くの場合、冷暖房が原因だった。熱中症になったり、凍えたりしなければいいわけで、変に涼しくしたり暖かくするのは却ってよくない。高校生になった頃からそれを心得て、夏は「暑くないの?」、冬は「寒くないの?」と人から言われるくらいの服装で出掛けるようにしていた。特に冬は着込むと重いし、着膨れしたくないから気を付けている。
今回の旅行でも基本的にはその考えを踏襲して、ヒートテックと、それとは別に薄いインナーを用意して体温調節をすることにしていた。肌に触れるインナーだけを変えれば、他は毎日変えなくても済むから荷物も随分軽くなる。仙台に到着した1日目は、念のため警戒して、1番暖かい装備であるインナー、ヒートテック、セーター、コートの4枚を着ていた。晴れていたのもあったとは思うけど、暖かすぎたと感じた。
それを踏まえて、翌日のこの日は豪雪地帯とも言われる遠野に行く予定だったけど、構わずセーターとコートの2枚で出掛けることにした。

仙台を出発してから30分足らずで、昇り始めた陽の光で輪郭だけが映し出された、何となく良い景色が視界に入ってきたかと思うと、それが4日目に予定していた松島だった。往路で通過することを忘れていたから不意打ちで、じっくり見る間もなかった。
花巻に到着する頃には辺りが雪で覆われていて安心した。花巻からは、岩手の内陸と東岸を結ぶ釜石線に乗り換えて遠野へ向かう。この釜石線は「銀河ドリームライン」とも呼ばれていて、各駅の駅名標銀河鉄道の夜遠野物語などをモチーフにした可愛らしいデザインが施されている。各駅での停車時間も長めで、のんびりと走る感じが良かった。

6時45分に仙台を出発してから4時間、11時2分に遠野駅に到着した。

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民話の里である遠野の駅名標
2014年に改修したばかりらしく、まだ綺麗だった。

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周辺案内板。
これで迷わずに観光ができるぞ!

遠野は駅周辺から既に路面が凍結していて、似ていたわけではないけど、子供の頃によく行った盛岡の街を思い出した。12時26分発のバスに乗って散策をするつもりだから、その間に昼食を済ませておく。とりあえずカッパの提灯が吊り下がっている駅前の喫茶店に入った。店主がカッパの格好をしてカッパ語で話しかけてくるので、こちらも負けじと応戦した。食事もできるようだったけど、先に決めていたお店があったから、飲み物だけにしておいた。

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これでいつカッパにあっても安心だ。
(ここ以外でカッパ語を聞くことは無かった)

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カッパチーノ。
かわいい。

一息ついたところで、駅から少し歩いたところにある11時30分開店の喫茶店に向かった。駅周辺には小さなお店が何件かあって、歩くのが楽しかった。商業施設が建ち並ぶ、何を買うにも不自由しない大きな街よりも、こういう街の方が歩きやすいし、静かで好き。
開店時間丁度に入店して、ランチメニューのオムライスを注文した。喫茶店ということにはなっているけど、メニューは洋食屋さん風だと思う。

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中がトロトロのオムレツが乗ったオムライス。
オムライスの卵はふわとろ派だ。

とっても美味しい。チキンライスのケチャップは控えめで、上に掛かっているデミグラスソースの味が支配的。何か独特の風味があるから、具材を一つ一つ確かめていったところ、デミグラスソースに癖のある香ばしい甘味がある事に気付いた。絶対食べた事のある味なんだけど思い出せない。コクがあって、初めはキャラメルソースかと思ったけど、ミルクのようなまろやかさはない。うーん......何だろう。クイズにでも答えるような気分で、一口一口じっくり食べていくと、食べ終わる少し前、似たような味に麩菓子が思い当たったところで気が付いた。

お……

わかった!これは…


黒糖だ!
わはは!

お店の人と答え合わせをしたい気もしたけどそこは抑えて、心中ドヤ顔で会計を済まし、すっきりとした気分でお店を後にした。

営業所から近かったから、路面の状態は悪かったものの、駅前の停留所には時間通りにバスが来た。信号を無視して道路に飛び出していたお婆ちゃんを轢きそうになったりしながら、定刻を数分過ぎた13時過ぎに市の北東に位置する山口部落に到着した。ここは遠野物語の中でもしばしば名前が挙がる場所で、周辺には水車小屋、ダンノハナ(壇の塙)、デンデラ野(蓮台野)と呼ばれる地がある。ダンノハナと蓮台野について、遠野物語(柳田,1976)の中では、次のような記述がある。

山口、飯豊、附馬牛の字荒川東禅寺および火渡、青笹の字中沢ならびに土淵村の字土淵に、ともにダンノハナという地名あり。その近傍にこれと相対して必ず蓮台野という地あり。昔は六十を超えたる老人はすべてこの蓮台野へ追い遣るの習ありき。老人はいたずらに死んで了うこともならぬ故に、日中は里へ下り農作しては口を糊したり。

このような悲しい風習も作中では取り上げられていて、どんなところなのか、実際に見てみたいと思って今回足を運ぶことにした。

この日は風が強くて、山口のあたりまで来るとそこらで小さな地吹雪が起きていた。誰もいない中、氷に足を取られないようにゆったりとした足取りで水車小屋まで歩いた。
到着して小屋の方を見てみると、修理工事のシートがかかっていた。少し残念だったけど、ここまでの道のりが楽しめたからそれほど気落ちしなかった。
少し引き返して、ダンノハナ、蓮台野の方へ歩いていく。ダンノハナへ向かう道は雪が深くて、歩く気がしなかったから諦めた。橋を渡り、少し歩くと蓮台野に着いた。坂道に積もった雪に足跡が付いていて、他にも物好きな人がいるんだなぁと思った。坂の上は開けていたけど、雪で覆われているから小さな小屋がある以外特に何も見つけられない。それでもその地の背景を考えると、「何もない」とは言い難い。雪が一層淋しさを際立てているようにも感じた。

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蓮台野を訪れた後は、市街の方にまっすぐ伸びる大きい道に出て、カッパが出ると言われるカッパ淵の方へ歩き出した。平地の中を綺麗に一直線に伸びる道路だから見晴らしが良くて、誰もいない道を独り占めしているような心地がした。

しばらく歩いてカッパ淵に着いた頃には15時前になっていて、2時間近く外を歩いていたことになる。手袋を着けていたから手はまだ平気だったけど、普通の靴下にブーツを履いただけの足はだいぶ冷えていて、霜焼けを起こしそうだった。ササッ!と淵の見学を終えて、近くにあった伝承園という博物館にある食事処に入った。中に入ってもお店の人が出てこないから、ストーブの近くの椅子に腰掛け、暖を取らせてもらった。正直に言うと、食事処には入ったものの、食事をする気はあまりなかったから、丁度良かった。しばらくしてからお店の人が現れ、僕を一瞥すると事情を察して、「外は寒いでしょう、ごゆっくりどうぞ」と笑顔で声をかけてくれた。

心も体も暖まったところで、お礼を言って外に出た。お店の中にあったバスの時刻表で確認すると、次に伝承園前の停留所にバスが来るのは16時26分(定刻通りに来れば)で、1時間近く待つことになる。今考えると博物館を見学していればよかったんだけど、当時はそんな発想はなく、歩いて戻ることに決めた。ストーブでしっかり暖まったからその後の足取りは快調で、16時頃に駅前に到着した。駅までの道中にも何件か気になるお店があったりしたから、それらを見ているだけでも退屈しなかった。

宿に着いて少し眠ってから、ジンギスカンを食べに出掛けた。ジンギスカンというと北海道のイメージが強いけど、東北でもジンギスカンを食べる風習がある。実際、僕が初めてジンギスカンを食べたのも、小さい頃に家族で小岩井農場に行った時のことだった。遠野のお店は札幌で食べたお店よりも値段が安くて量も多かったし、何よりもタレが抜群に美味しい。昼のオムライスには黒糖だったけど、こっちは麻薬だと思う。

宿に戻ってのんびりしてから、お風呂に入ることにした。共同の浴場だから僕が入った時には他のお客さんが一人いて、端に備え付けてあるバルブを回し、ダバダバと水を注いで温度を調節していた。僕が体を洗い終えるのと同時にそのお客さんが出ていったので、お風呂に浸かることにした。温度を確かめようと足先を少し入れた瞬間、反射的に足が湯面を離れた。熱過ぎる。実は蛇口から流れていたのは水ではなくお湯で、彼は温度を上げていたのだった。その上、その時点でも蛇口からはお湯が流れ続けていたから、とても入れたものではない。少なくとも、一度銭湯で入った事のある44℃以上の温度はあったと思う。温度を下げる為の水の注ぎ口が見つからず、そうしている間にも体がどんどん冷えていくので、お湯に浸かるのは諦め、桶で数回お湯を浴びて上がった。ここの浴場は浴槽以外の場所が寒くて、脱衣所も同様だったから、入浴できなかった僕は暖まる間もなく、湯冷めすらできずに冷えっぱなしだった。

2日目終わり