場所を探しています

「思い出の場所」と言うと、その時の心情や、その場所に一緒にいた人などの、場所そのもの以外の成分が含まれている感じがする。「忘れられない風景」と言うと、純粋にその時目にした光景が絵として記憶に残っている感じがする。
ある場所が記憶に強く残るというのは、その場所で物を見ながら、呼吸をし、匂いを嗅ぎ、音を聞き、空気を肌で感じ、考え事をしたりした後に、それらのいくつかが保存されることだと思う。経験的にはやっぱり視覚からの情報が圧倒的に残りやすい。だからこそ、それ以外の情報が保存された記憶というのは特別で、かなり気に入っている。
その一つが高校3年生の1月に受けたセンター試験会場の教室だ。最初に受ける試験とあって、注意して早めに会場に到着したため、教室に入った時には自分一人しかいなかった。ドアを開けて中に入った瞬間の事を今でもはっきりと覚えている。その教室は無音だった。この時、無音が静けさの延長にはないことを知った。「静かな場所」は小さな音を楽しむ場所だけど、無音は全く別物で、1月の澄んだ空気で満たされた空間に、体が溶けていくような心地がした。センター試験会場として使われただけのごく普通の大学に過ぎないため、今再び訪れたとしても同じ体験はできないというのが、なんとなく嬉しい。

無音の場所、ないかな......。